秘め事





オーブ主催の戦後5周年の記念式典パーティの会場で、プラントの評議会議員として招待されていたアスランは
入り口を通り過ぎるとまっすぐにある方向へと向かった。

彼が向かう方向には、プラントの現評議会議長アイリーン・カナーバや親善大使であるラクス・クライン、
オーブや地球連合、プラントの重鎮たち、そしてオーブの事務補佐官となったアスランの親友キラ・ヤマトと
挨拶を交わすグリーンのドレスに身を包んだ女性の姿があった。

女性の名はカガリ・ユラ・アスハ。オーブの獅子と呼ばれた今は亡きウズミ・ナラ・アスハの娘であり、
現在のオーブの首長である。

綺麗になった。

アスランは胸が高鳴るのを感じる。

ひさびさに目にするカガリは、また輝きを増している。5年前は言動や服装から少年に間違われることも
多かった。

しかし、今の彼女を見る者は信じられないだろう。

元々顔立ちは綺麗であったが、ここ5年の間に美女といってもいいほどに成長を遂げていた。

歩いてくるアスランに気づいたのだろう、ラクスがカガリの耳に口を近づけなにかをささやくと、
カガリは勢いよくアスランの方へと顔を向けた。

その顔が瞳が愛しげに緩んだ。だがそれも一瞬。はっとわれに返るとりんとした笑顔に変わる。

アスランも顔が緩みかけるが、すぐに顔を引き締めてカガリの前に立ち、その左手を取ると手の甲に口付けた。

「アスハ代表。お元気そうでなによりです。」

「お久しぶりです、ザラ議員。今宵は存分にお楽しみくださいませ。」

アスランが左手を離して挨拶を述べると、カガリはにこりと微笑んで返事を返した。

微笑みながらも、悲しげな光をたたえる彼女の琥珀の瞳を見て、すぐここで抱きしめたくなる。

だがまだ許されないことだと自分に言い聞かせ、他のオーブの重鎮たちや地球連合の重鎮、
そして親友へ挨拶を交わすため、アスランはカガリからそっと離れた。

「ひさしぶりだなキラ。」

各国の重鎮と挨拶を交わした後、アスランはキラに声をかけた。

「アスラン。久しぶり。」

キラはアスランに返事を返すものの、どこか上の空である方向へと目を向けた。

その視線の向かう先にカガリと―――――ラクスがいた。

ラクスは愛しさと寂しさをたたえた瞳でキラを見ていた。ふとキラを見ると目が合い、キラは困ったように笑った。

その瞳にも切なさや悲しみが湛えられていた。

自分たちだけではない。キラもラクスも互いに愛しく思いながら、触れ合えないことに耐えているのだ。

親友と元婚約者であり、今は妹のように思っている女性。幸せになってもらいたいと思う。

だがまだ許されないのだ。自分たちもキラたちも。







「ラクス?」

「ほらカガリ、アスランですわ♪」

腕を引き寄せられたかと思うと、ラクスが耳打ちしてきた。アスランという言葉に、カガリは勢いよく入り口の方へと
目を向ける。

視界に目に入ったのは、こちらへと向かってくる藍色の髪とエメラルドの瞳を持った青年の姿。

カガリの胸がとくんと音を立てて熱くなる。

5年前、まだ幼さの残っていた顔立ちは、もう完全に精悍さを漂わせる大人の男の顔になっていた。

優しい瞳で自分にまなざしを送る彼に、愛しさで胸がいっぱいになる。

どうしてこんなに好きになってしまったのだろう。

彼と出会ったのは偶然。不時着したところが同じ無人島だった。

二度目はオーブの艦の中。親友であるキラを殺してしまった罪悪感に蝕まれ、
キラに殺された仲間を思って嘆いていた。

いろいろな出来事を経て自分たちの味方になり、
彼がほっとけなくて接しているうちに互いにかけがえのない存在になっていった。

最後にじかに顔を合わせたのはいつだっただろう。今でも通信で連絡を取ることもあるが、それは映像を通してだけ。

一瞬、顔が柔らかく緩みかけるが今自分がいる場所がどこなのかを思い出し、慌てて社交用の顔を作る。

近づいてくるアスランの瞳に少し熱を持った光が見えたが、一瞬のことで彼も顔を引き締めてカガリの前で足を止めた。

左手がアスランの右手で持ち上げられ、手の甲に口付けられる。

「アスハ代表、お元気そうでなによりです。」

「おひさしぶりです、ザラ議員。今宵は存分にお楽しみくださいませ。」

あくまでもオーブのトップに対するプラントの議員というスタイルを崩さず、
しかし自分を見つめる瞳に少しの熱さを湛えながら言葉を交わすアスランの姿に胸がちくりと痛んだ。

そんな自分を見てアスランは一瞬痛みを我慢する表情を見せたが、そのままなにもなかったかのように
オーブ、地球連合の重鎮たち、そしてキラと挨拶を交わすためにカガリから離れる。

その背中に今すぐ縋り付きたかった。だがそれはまだ許されないことなのだと自分に言い聞かせて唇を噛む。

ふと視線を感じ、顔を上げてラクスを見る。ラクスは少し悲しそうな笑顔を浮かべて自分を見ると
彼女はアスランがいった方向へ目を向けた。

カガリも同じ方向へ目をむけると、キラがこちらを見ていた。せつなさと愛しさを秘めた瞳をラクスに向けて。

切なさをたたえた瞳を互いに向け合う自分の双子の兄と、親友となった女性を見て、
カガリは自分とアスランの立場を重ねて胸がくるしくてたまらなくなった。




決めたはずだった。

カガリはオーブに、アスランとラクスがプラントへ戻ることになり、
マルキオ導師の家での生活が終わりを告げた3年前のあのときに。

二人で約束したのだ。

ナチュラルとコーディネーターの共存への道が安定するまで自分たちの関係は伏せようと。

誓い合った最後の夜、お互いの絆を完全に結びつけるため二人はたった一度だけ結ばれた。
たとえ離れ離れになってしまっても心はそばにいるという意思表示に。

だが別れてから月日がたつにつれて愛しさが募っていくのを感じた。

だが今は時ではないのだ。

だいぶ意識の格差はなくなってはきているが、万全とはいえない。

それが判っているからこそ自分たちの関係を感ずかれるわけにはいかないのだ。

この自分たちの秘めた恋は。









あとがきと言う名のいいわけ(汗)。

やっとでアスカガ小説UP。
設定としましては
あのマルキオ導師の家での2年の生活を経て、
自分たちのやれるべきことをしようと決心した
カガリとアスランはオーブとプラントに戻った。
という設定です。
石投げられることを覚悟します。
背景画像は、デイジー(ひなぎく)です。花言葉は「心に秘めた愛」