予定外の出来事





「ん?」


竜也が街のスポーツ用品店で、サッカーシューズを見ようと店内に入ってきたところ、

サッカーボールが並んでいる棚のところに見知った顔が見えた。


(桜井?何してるんだあんなところで・・・。)


同じサッカー部の後輩の少女は、サーカーボールの棚の前でなにやら考えこんでいる様子だった。

もしかしたら、どの大きさのものを買えばいいのかわからないかもしれない。

いつもならあまり女の子とは関わりたくないのだが・・・・。

だが、みゆきはサッカー部の後輩である。アドバイスでもできれば、彼女のためにもなるだろう。


「どれがいいのかなあ・・・・。」


うーんと真剣にボールを選んでいる姿に、微笑ましいもの感じて思わずクスリと笑みを浮かべながら、


「桜井、何選んでるんだ?」


竜也は彼女に近づくと声を掛け、ポンと肩を叩いた。


「きゃあっ!」


みゆきは小さく叫ぶと肩をびくりと震わせた。

彼女が振り向いて、こちらを見た。


「み、水野先輩!?」


「す、すまない。驚かせたみたいだな。」


彼女にしてみれば部活以外、あまり接点もなくあまり話をしたことのない

自分がこんな所で話しかけてくるなんて思わなかったのだろう。

大きな目をパチクリと見開いて、こちらを見ていた。




「ありがとうございました〜!!]


みゆきと並んで店内を出るとだいぶ日は傾いていた。


「すみません・・・、水野先輩。こんな時間までいろいろ聞いちゃって・・・・・。」


「いや、気にするなよ。俺も好きでやったんだし。」


あの後、みゆきに聞いてみると、サッカーボールを始め、スパイク、ソックスを買おうと思ってきたのだが、

自分にはどんなものが合うのかわからなかった。そのためどうしようか迷っていたということだった。

そこで、竜也が変わりにアドバイスを添えて、みゆきに合ったものを見繕った。

さらに説明から他のサッカーの話題へと話が移ってしまい、だいぶ時間が経ってしまったのだ。


「・・・でも桜井、頑張ってるよな。小島も『人一倍、頑張って練習してるし、

初めにくらべるとだいぶ上達した。』って言ってた。」


竜也も、彼女の一生懸命にサッカーに取り組む姿勢には感心して思わず見入ってしまったほどだ。


「ほんとですか !? 」


そういって、みゆきは本当に嬉しそうに笑った。

その輝くような笑顔に、思わず見惚れてしまう。

先輩として慕う有希に言われたのも嬉しいのだろうだが、思いを寄せている風祭将に近づけたということが

一番嬉しいのかも知れない。

彼女の将に対する想いは周りの誰が見ても明らかで、わからずにいるのは鈍い将ぐらいのものだろう。

そこまで考えて竜也はなにか胸がもやもやするのを感じる。


(なんだ?なんで俺こんなにむかついてんだろ・・・・・?)


そのとき、頭の中にふと今年のバレンタインでのシゲとのやりとりがよみがえった。


『・・・・タツボン、気になる女の子とかおらへんの?』

両手に大量のチョコを抱えご機嫌なシゲと、自分の机に置かれた山のようなチョコを

前に疲れたようにため息をついた時だった。

明らかに精神的に疲れて不機嫌な自分に彼が言った。


『別に。興味ない。サッカーやってる方が楽しいしな。』

『うわ、つまらんやっちゃなあ・・・・。たとえばやで。ある女の子が仲よさそうに男と喋ってて、
ムカムカしたりとかイライラしたりとかしたこととかあらへん?』

『・・・・それがなんなんだ。』

『覚えとき。やきもち・・・嫉妬ってゆうんやで、それ♪
そんなふうに相手の男に嫉妬するようになったらな、その女に恋してるってことや。』

思いだして、やっと気づく。今の状況はあの時彼が言っていたことと一致していないだろうか。



一気に顔に熱が集中する。

(うっわ・・・、おれ・・・・///)


確実にみゆきが好意を寄せた将に嫉妬したことを自覚した。

自分はこの少女が好きなのだ。

女の子に近づくのをあまり好まない自分が、こまっているのを見て助けたいと思ったのもみゆきだから。

部活中、彼女が一生懸命練習するのを思わず見入ってしまっていたのも、自分が彼女を好きだから。


「水野先輩、どうかしました?」


「うわっ!?」


みゆきに覗き込むように見つめられ、びっくりした竜也は一歩後ろに下がる。

みゆきは一瞬きょとんとした顔を浮かべたが

すぐにはっとして竜也の服の右の袖をつかむ。


「あ、あのっ!先輩、まだ時間大丈夫ですか?お礼になにかおごりますっ!」


「え。いいって!俺が好きでやったことだし気にするなよ。」


みゆきと離れがたい気持ちもあるが、これ以上一緒にいるとわけのわからないことを言ってしまいそうで

早く家へと向かおうと思ったが、みゆきが両手で右腕をつかんだままなので動けない。


「でも、それじゃ私の気がすまないんです!お願いします〜。」


必死に腕をつかんでいるみゆきがちょっと気の毒に思えて、竜也は観念することにした。

このままでは、自分におごるまで彼女は腕をつかんだまま離そうとはしないだろう。


「・・・・わかった、それじゃお言葉に甘えるよ。」


竜也が了承するとみゆきは嬉しそうに無邪気な笑顔を浮かべて彼の右腕を引いた。




次の日、たまたま通りかかりこの一部始終を見ていたシゲによって、竜也はからかわれることになるのだが

竜也はからかわれることになるのだが、今の彼には知る由もなかった・・・・。











あとがき


水→みゆティスト。

別名タツボン自覚編(笑)

なんか突拍子もない自覚の仕方のような気がする・・・・・(汗)

それになんかタツボンが別人と化しております。









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