02 : 平和すぎる午後
うららかな日差し。
(気持ちいい天気さ〜。)
時刻は正午すぎ。
鍛錬を終えたラビは、う〜ん、と大きく伸びをしながら、
昼食を摂る為に食堂へと向かっていた。
(絶好の屋外ティータイムびよりさね。)
今日はミランダと、アレンとリナリー、そして神田も交えてお茶を
することを約束していた。当然ながら神田はものすごく渋ったが、
『ご、ごめんなさい。私から誘われたって迷惑よね・・・。』
という、相変わらずのネガティブ思考を発揮しながら、きゅーんと寂しそうに鳴く
子犬のように、うるうると涙目で、さらにおどおどと見つめるミランダと、
『ミランダを泣かせたら許さないわよ。』
と、いうような雰囲気を漂わせていたリナリーの無言の圧力に根負けした結果、
彼もお茶会参加と相成った。ラビとしてはミランダと二人きりでお茶のほうが
良かったのだが、
『みんなで一緒にお茶を飲んだほうが楽しいと思うのよ。』
と、ミランダが心底嬉しそうに笑うから、彼女の気持ちに水を差すようなことを
言えるはずもなく。
(まあ、二人っきりで、っていうのは今度っつうことで・・・、ん?)
中庭の傍を通りがかったときだった。
ふと視界の隅になにかが見えたような気がした。ぐるりと周りを見回すと、
植えられている木の一つ、その木陰でミランダが眠っていた。
なんでこんなところでミランダが寝ているのだろう?
起こさないようにそっとゆっくりと彼女がいる場所へと近づいていく。
ミランダの傍で立ち止まると、じっと彼女の寝顔を見つめる。
木の幹にもたれかかるようにして眠っている。ひざの上には、開いたままの
本が載っていた。その本をよく見るとなにかの詩集のようだった。
彼女が座っている場所の横には水筒。
どうやら本を読んでいてその途中で寝てしまったらしい。
・・・・そう言えば、とラビは思う。
今は昼食の時間帯。ミランダのことだ、自分を昼食へ一緒に行こうと
誘う為に、彼女はここで鍛錬が終わるのを待っていてくれたのだろう。
嬉しさで思わず笑みがこぼれる。
しかし。
「・・・すっげぇ、無防備。」
その寝顔はすごく幼く見えた、―――いや無垢、といった言葉が正しいのか。
彼女は二十五なのにも関わらず、時々十代の少女のように見えるときがある。
恥らったときだったり、すごく顔を真っ赤にして照れた時だったり、
きょとんとしているときだったり。
だが珍しいこともあるものだ。こんな近くにいるのに、目を覚まさないなんて。
通常、ミランダの眠りは、一部の例外な状況を除けば、浅いことが多い。
浅い時は少しでも物音や話し声が聞こえたら、すぐに目を覚ましてしまうのだ。
なのに起きないということは、相当、彼女の眠りが深いということ。
しゃがみこんで、ためしに頬をつついてみる。眉が少しピクリと動いたが、
起きる気配はない。いつもだったらすぐ飛び起きて、
「きゃあ!ラ、ラビ君!?わ、私、寝ちゃってたの!?」
といつのまにか寝ていた事実と、寝顔を見られたという羞恥心から、
パニックになっているところだ。
今度は軽くぽんぽんと頬を叩いてみる。ううん、と身動ぎするものの、
すぐさますうすうと寝息をたて始めた。次は軽くつねってみた。
結果は先ほどと同じ。・・・・完全に寝入っている。
ラビは両手で頭を抱えてため息をついた。
「でも、なあ・・・。あまりにも無防備すぎだろ・・・・?」
最近のミランダは、綺麗になった。もともと美人の部類に入るのは
解っていたが、目の下の隈も薄くなり、血色がよくなり、顔色もよくなった。
教団のバランスの取れた食事と、仲間たちといる安らぎ、
そして自惚れているわけではないが、自分との「恋」という感情の
おかげなのだろう(女性は恋をするときれいになると言うし)。
けれど、曲がりなりにも恋人としては嬉しい反面、非常に複雑なわけで。
何故かというと、最近、ミランダの美人度が増してきたせいか、
教団にいる男性たちの彼女を見る目が変わってきているからだ。
エクソシスト仲間や、コムイやリーバーなど科学班のメンバー、トマ、キエ、
マオサといった知己は、ラビとミランダが互いに想いあっているのを
よく知っているので、元々女好きであるクロスを除いて、
ミランダにちょっかいをかける者はいない。ミランダと一緒にいるのを見て
嫉妬はしないとは言えないが、クロス以外は少し安心していられるのは確かで。
けれど、その他の男たちなら別だ。
彼女自身、異性に対する警戒心がすごく薄い。そして恋愛に関しては驚くほど鈍い。
彼女が異性に対して無防備に近いのは、今まで異性との恋愛感情の伴う
付き合いが皆無だったこともあるが、自身を好きになってくれる者はめったに
いないと思いこんでいるからだ。アレンやリナリーと一緒に、常日頃から
そんなことはないと、また、ラビが、じゃあ、俺はどうなるさ?、とミランダに
口をすっぱくして言いくるめているものの、彼女自身がラビと想いが
通じあったこと自体、奇跡だと思っているために全くわかってくれない。
ミランダによく知らない男が話しかけるのを見る度に、自分がどんなに嫉妬に
身を焦がしているか彼女は解っているのだろうか?
「・・・・きっと、わかってないだろうなぁ。」
ミランダは筋金入りの鈍感だ。ラビも想いを成就させるのにどれだけの労力を
使ったことか。ラビが好きだ、と何度も告白しても恋愛感情で言っているのではない、
「姉」のような「仲間」に対して「弟」のような感情で「好きだ」と言っているのに
すぎないのだと、中々本気に取り合ってくれなかった。
自分が本気なのだと伝え、尚且つ、両思いに漕ぎ着けるまで、ありとあらゆる努力を
した日々を思い出すと、本当に頑張ったな、と思う。
あの苦労の日々を思い出し、はあ、とラビは大きなため息を吐いた。
「なんか、俺ばっかりが好きみたいさ・・・。」
ラビは、何度も何度も、ミランダの欲しい言葉を、抱擁を、口付けを与えて、
彼女への想いを伝えたけれど、ミランダからは両手・・いや片手で数えるほどしかない。
彼女自身、恋愛自体に不慣れな為、慣れない恥ずかしさが先に来てしまうからだと
理解しているけれど、やはり彼女からももっと伝えて欲しい、もっと与えて欲しいと思う。
ラビはそっとミランダの頬に手を添えると、頬を撫でた。ふと、彼女のひざのところをみると
持っていた本が落ちかけていたことに気づく。もう一方の手で器用にしおりを挟み、
本を閉じると、彼女の手から取り上げて、横に置く。その時だった。
ミランダが身じろぎ、うっすらと目を開いた。
「あ、ごめん、ミランダ。起こしちまった?」
「・・・・・・・・。」
「・・・・ミランダ?」
起こしたことに対する謝罪が聞こえていないのか、ミランダはなにかボーっとして、
何も言わない。どうしたのかと、もう一度彼女を呼んでみるが、
ラビを見たまま反応がない。どうやらまだ眠りの世界から覚醒していないようだ。
が、次の瞬間。
「ラビ君・・・・。」
ふわり、と。ミランダはうっすらと頬を染めて、甘い、甘い、笑顔を浮かべて、
ラビの名を呼んだ。
「大好き・・・・・・。」
頬に添えられていたラビの手に自分の手を添えて、すり・・・、と幸せそうに頬を摺り寄せ、
次に頬からラビの手を離すと、今度はラビの背中にゆっくりと腕を廻して抱きつく。
そして固まるラビの唇に口付けると、ラビの胸に頬を摺り寄せ、再びすうすうと
寝入ってしまった。背中に廻されたミランダの腕がするりと、力なく落ちる。
「//////////〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
しばしの沈黙の後、ラビは思わず口元を押さえて、身悶えた。
頬がすごく熱くなるのを感じる。
不意打ちだ。
ミランダに甘えてほしい。彼女から好きだという思いを、伝えて、与えて欲しい。
そう思っていた矢先のこの一連の行動。あまりにも、可愛い。可愛すぎる。
あまりにも嬉しすぎる。どこまでも自分は彼女に参ってしまっているのだと、
本当に思い知る。
自分を呼ぶ甘い、甘えたような声を、あの甘えるような微笑を、
甘えるしぐさを見ただけなのに、甘い口付けをもらっただけなのに。
もやもやとしていた気持ちは何処かへと消え去っていた。
代わりに暖かな気持ちで満たされる。我ながら現金なものだと、
ラビは苦笑を浮かべた。彼女を抱きしめたまま、彼女の甘い香りのする
髪に頬を寄せる。彼女の右手を手に取ると、その甲に口付けて。
そして起こさないようにそっと顎に指を添え上向かせると、
その唇に口付けて。
唇を離し、木に背を預ける。ミランダが起きるまで抱きしめて待っていようと
思っていたのだが、彼女の寝息に触発されたのか、とろりと眠気が押し寄せてくる。
ミランダと約束していたお茶の時間まで、あと数時間。
このまま眠ってしまえば昼食は食べることはできないだろうが、彼女と眠るのも
悪くはないし、また、彼女へ想いを寄せる男どもへの牽制もできるだろう。
そんなことを思いながらゆっくりと目を閉じた。
―――――――数刻後。
目覚めてラビに抱きしめられていることを認識したミランダの悲鳴と、
彼女の悲鳴を聞きつけて、二人のいる場所へ飛ぶように駆けつけた
リナリーから繰り出された怒りの回し蹴りの衝撃によって、
ラビは目覚めることとなる。
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あるサイト様に触発されまして、思わずこちらの企画に参加を決め、
Dグレ小説を提出してしまいました(笑)。でも冷静になってから似たような話が
ありそうで、パ○リとか言われやしないないかと戦々恐々としております・・・!
もう本当に銀魂の沖神に続く脳内ブームです。ラビミラ♪
企画 「SummerFlowers 2008」 提出作品